3.3 空間利用と行動

 半地下性のヒミズ類や地下性のモグラ類は,いずれも生活の大半をトンネル網の中で過ごし,そのトンネル網自体が各個体の行動圏であり,同時に縄張りとなっている.小型,中型の多くの地上性哺乳類が休息や育仔の場として地中に作られた巣穴を利用するが,ヒミズ類やモグラ類,あるいは他の地下性齧歯類のトンネル網はさらに採食活動,縄張り防衛や交尾相手の探索のような社会的行動の場にもなり,地上性の動物の用いる巣穴とはまったく意味が異なる.これらの様々な活動の大半を行なうトンネル網を自らの手で作り上げることによって,こうした半地下性,地下性の種は,多様な小型哺乳類の中でも生態学的に極めて独特な存在となっている.ここではまずこのトンネル網の構造について触れ,モグラ科動物がその中や地上,あるいは水中で行なう行動上の特性のうち,前項で扱った採食行動以外のものについて触れる.これには空間利用様式や活動時間に関係する生態学的な側面と,個体間関係に関する社会行動学的な側面が含まれるが,双方は深く関わり合いながら,次項以下で述べる生活史や種間関係についての様々な特性に大きく関与している.

トンネル網の構造
 モグラ科動物のトンネルとトンネル網の構造については,国内でも数人の研究者が部分的な観察を行なっているが(Abe,1968;牧田,1972;Imaizumi,1978;今泉,1983),その全体の構造を明らかにした研究は見られない.国外では主としてヨーロッパモグラにおいて,放射性同位元素を用いた追跡(Godfrey,1955,詳細は後述)などが行なわれ,トンネル網の全体像がかなり明らかになっており,国内でもよく紹介されている(今泉,1970a,1987;青木,1973 など).それらによると,モグラのトンネルには複雑なトンネル網の中の「幹線」とも言うべき繰り返し利用されるもの(恒久的な坑道 permanent gallery)と,一時的に掘られるだけですぐに利用されなくなるもの(採食用坑道 hunting gallery)がある.前者の多くは地中深くに掘られることが多く,deep burrow あるいは deep tunnel と呼ばれ,その深さはコウベモグラで 1.3 m に達した例が知られている(牧田,1972).しかし,地表の直下のトンネルでも条件によっては長期間用いられることがあり,(牧田,1975)はコウベモグラのそうしたトンネルがほぼ連続して 167 日および 134 日使用された例を確認している.後者は恒久的な坑道から盲管状に,垂直に分岐することが多く,森林の中に作られた場合はミミズの多い落葉溜りのような採餌に適した場所に通じている.3.2 項で述べたようにモグラ類の索餌行動はトンネル内の巡回を基本としており,恒久的坑道を中心に行なわれる.採食用の坑道は,臭いや振動などで食物となる土壌動物を発見した後に,それに向かって掘られるものと考えられている(今泉,1983).その中には,地面の真下に数 cm 程度の深さで土壌を押し上げ,地表にミミズ腫れ状の独特の隆起を形成して作られるものが多く,surface run,surface burrow または surface tunnel と呼ばれる(図 3-4上).これは夏期に作られることが多く,いくつかの土壌動物,特にミミズなどがこの時期に地表近くで活動するためではないかと考えられるが、一部には分散中の若い個体(3.4 項参照)が通った痕跡が含まれている可能性がある.コウベモグラの surface run の深さを計測した例では,地下 15 cm までのものが確認されており,それより深いとミミズ腫れ状の隆起は形成されない(牧田,1972).農耕地などでは短時間の内に数 10 m に及ぶ surface run が掘られることがあり,その原因はよくわかっていないが,新たに耕作が行われた場所に多い(Gorman and Stone,1990)ことから,人為的な撹乱によって土壌動物の分布が急激に変化することや,恒久的な坑道が頻繁に破壊されたりすることに対する反応である可能性が高い.また,森林では風倒木の下にトンネルが掘られることが多く,林床に丸太を置いて,半年ほどでその下にアズマモグラのトンネルが確認された例もある(今泉,1989).古くはヨ−ロッパにおいて,モグラが深いトンネルを掘る時は土をトンネルの内壁に押しつけ,地表に出すことはないとする記述も存在するが(Schaerffenberg,1941),実際にはモグラ類は地中深部のトンネルを掘る際に出る残土を地表に盛り上げることが多く,こうして形成されたものがいわゆるモグラ塚(molehill)である(図 3-4下).モグラ塚の大きさは,コウベモグラの場合長径 50 cm,高さ 20 cm に及ぶことがある(牧田,1972).山梨県上九一色村の朝霧高原での観察では,コウベモグラ 1 頭あたり 125 個のモグラ塚が作られ,その体積は 4.3 l,重さは 2.7 kg(いずれも平均値)に及んだ(今泉,1983).ヨ−ロッパモグラの場合,1 個のモグラ塚の土の量は 0.5 〜 1 m(Haeck,1969)から 4 〜 5 m(Grulich,1959)のトンネルに相当するとされる.地中深部を走るトンネルは冬期に掘られることが多く、モグラ塚もこの時期に作られることが多い.これはいくつかの土壌動物,特にミミズが越冬のため地中深部に移動することと,食物の全体量の減少を補うためと思われる.


図 3-4 アズマモグラの生活痕 (上)芝生の縁石沿いに作られた Syrface burrow(富山県富山市内で著者が撮影);(下)モグラ塚(直径約 25 cm、神奈川県相模原市で著者が撮影)

 モグラ類のトンネル網の一角には巣が作られ,日本産の種についても偶然によって発見されたものが報告されている.田代ら(1958)は,静岡県小田原市内の工事現場の地下 95 cm の深さから,ハコネダケ Nipponocalamus vaginatus の葉だけでできた 30 cm × 20 cm × 15 cm の巣を発見しており,堀越ら(1967)は茨城県水海道市内の畑地に積み上げられた堆肥の中の,地上から 10 cm 程の位置から,数種の樹葉とイネ科植物の葉などでできた 15 cm × 10 cm × 9 cm の巣を見出している.この 2 例はいずれもアズマモグラのもので,巣内から幼獣が得られている.コウベモグラにおいても偶然巣が発見された例があるが,正確な記録は残されていない(藤原,1956a).その後,後述のようにキノコの存在を頼りに森林の中で巣を発見する方法が発見され,いくつかの種で巣が確認されている.2 種以上のモグラ科動物が分布している地域で巣が発見された場合は,その内部に見られるモグラの体毛が,その巣がどの種のものであるかを知る手がかりとなる.日本産のモグラ科動物の体毛の鑑別は,相良(1986)に基づいてある程度行なうことができる.ヨ―ロッパモグラの巣はトンネルを楕円形に直径 8 inch(約 30 cm)程掘り広げた巣室の中に,落葉や草本などの乾燥した植物体を材料として作られている.沼沢地ではスゲの類(Juncus 属)の葉,乾燥した場所では穀草類の茎などが巣材に用いられるが,巣室の床にそうしたものがマット状に敷かれているだけの場合もある.草本類でできた巣は明瞭な出入口がなく,巣材がしっかりと編み合わされているが,地中に同様な巣を作る野ネズミ類が中心部の巣材を細かく咬み裂いて用いるのに対して,モグラは巣材を元の形状のままで使用する(Godfrey and Crowcroft,1960).新聞紙やプラスチックのシ―トなどの人工物を用いていた例も知られている(Gorman and Stone,1990).休息に用いる通常の巣は雌雄ともに同じものを作るが,雌は育仔のために,出産の少し前に繁殖巣を作る.巣はトンネル網の中に 1 つが作られるだけとは限らず,特に雌は複数の巣を使用する傾向にあり,1 頭の雌が 5 つの巣を用いていた例も知られている.これは出産を行なうごとに新たな巣が作られ,それ以前の巣も完全に放棄されるのではないためと考えられる(Godfrey and Crowcroft,1960).
 モグラ類の巣の周囲には,食物の貯蔵所や排泄場所などの様々な付属物が作られ,それらの構造や構成は,ヨ―ロッパ産の種と日本産のものとでは多少異なっている.ヨ−ロッパモグラでは,時おり巣の底面から垂直に下方に伸びる深い穴(bolt-hole と呼ばれる)が掘られていることがあり,排水や非常時の脱出に用いられるのであろうと言われてきた(Godfrey and Crowcroft,1960).繁殖巣には bolt-hole がない場合が多い.ヨ−ロッパモグラはトンネル網の一部に土を盛り上げてかなり大きな隆起を作ることが知られており,古くからモグラの「要塞」(fortress)と呼ばれてきた(図 3-5).その中にはトンネル網の中でも特に複雑にトンネルが張り巡らされていることが多く,内部には地面と同じかそれ以上の高さに一つ,または複数の巣室が設けられている.晩秋から春にかけて作られることが多く,かつては雄が冬越しをするためのものと考えられていたが,実際には一年を通じて雌雄いずれによっても作られ,使用される.こうした「要塞」は様々な場所で見られるが,特に表層土壌が浅く,その下に硬い地盤が存在する所や,洪水の多い所でよく見出される.この中には雨水の溜る穴がいくつか掘られていることがあり,モグラが飲み水として利用するため,「モグラの井戸」として知られている(Godfrey and Crowcroft,1960;Gorman and Stone,1990).こうした「要塞」は非常に大きなものになる場合があり,全体の重量が 750 kg に達した例も知られている(Skoczen,1961).食物の貯蔵についてはすでに述べた.さらに,モグラ類は巣のそばのトンネルの一角に集中的に糞便の排泄を行なう排泄場所を作り(ヒミズでは巣から離れている場合もある),さらにそこに特徴的に発生するキノコが 2 種知られている(Sagara,1978,1980,1989,1995;Sagara et al.,1981,1989,1993a;相良,1989;Sagara and Abe,1993;詳細は話題 3 および 3.6 項参照).

図 3-5 スイスの Orbe 近郊のトウモロコシ畑に作られたヨーロッパモグラの「要塞」(上)と、その中から見つかった巣(物差しの目盛りは 10 cm;1995 年、相良直彦氏撮影)

トンネル網の規模
 地下性,半地下性のヒミズ類やモグラ類の個体の用いるトンネル網の規模は,直接的に,その個体が採餌や探索などの日常的な活動を行なう空間の広がりである,行動圏(home range)の広さを意味する.Godfrey(1955)は生け捕りにしたイギリス産ヨ−ロッパモグラの尾の基部に放射性同位元素の Co60 を含んだカプセルを取りつけた金属製のリングを装着し,放逐した後にガイガ−カウンタ−を用いて地上から追跡した.それによると,3 月から 5 月までの間の 12 頭の雌の行動圏の長径は 30 〜 70 m であった.また,Larkin(1948)は同じ方法でこの種の行動圏の規模を調べ,その長径が非繁殖期の雄で約 47 m,雌で約 30 m,繁殖期の雄で約 140 m,雌で約 35 m であることを示した.
 日本国内でも,ヒミズの行動圏の大きさに関しては柴内(1982)が同様の試みを行ない,1 個体が 3 日間で約 10 × 5 m の範囲を動き回ったとしている.その後,Ishii(1993)は房総半島の森林に多数のシャ−マントラップを格子状に設置し,記号放逐を繰り返して雌雄の行動圏を比較した.その結果,非繁殖期の行動圏の大きさには性による差がなく,雌雄を合わせた行動圏面積の平均値は,各個体の採集された場所を地図状に多数プロットし,その最外郭を結ぶ最外郭法で 1,533m2,95 %信頼楕円を用いた95 %信頼楕円法で 4,255m2であった(表 3-3).これらの値は調査総面積が限られていたために過小評価になっていると考えられている.
 日本国内で,モグラ類のトンネル網の規模をこうした方法で直接明らかにした報告は存在しない.しかし,今泉(1983)は朝霧高原のコウベモグラのモグラ塚の分布を調査し,50 〜 200 個のモグラ塚が 15 〜 30 × 40 〜 50 m の範囲(平均面積 724m2)内に集中して現れ,個々のモグラ塚群の間にモグラ塚の見られない境界域があることを見出した.また、同じ論文において,モグラ類のトンネル網の総延長は 70 〜 300 m であると述べている.最近では,ヨーロッパにおいてモグラ類の二,三の種の行動圏面積をラジオテレメトリ−を用いて測定した報告が見られるようになってきたが(表 3-3),それらによると,その面積は同じ種でも環境条件などによって 10 倍に及ぶ違いが見られることがあり,その最大の要因は単位面積あたりの食物の量であると考えられている.一般に面積あたりの食物量とトンネル網の面積は反比例の関係にあり,1m2 あたり約 200 〜 250 g の無脊椎動物が存在するイギリスの広葉樹林や低地の牧草地では 300 〜 400m2の小規模なトンネル網が作られ,2.0 〜 2.5 g 程度の食物しかない海岸の砂地では 5,000m2もの面積に及んでいる(Gorman and Stone,1990).前項で挙げた Farlow(1976)の数式のように,食物の要求量は体重に依存しているため,モグラの行動圏の規模には体の大きさも影響を与えている.いくつかの種では雄が雌よりも大型であるため,モグラの行動圏の規模は性別によっても異なり,Stone and Gorman(1985)は小型の電波発信器をイギリス産の雄 1 頭,雌 3 頭のヨ−ロッパモグラの尾の基部に取りつけ,雄の行動圏が雌のものよりも広いことを見出した。イギリス,スコットランド地方のヨ−ロッパモグラでは,海岸の牧草地とブナの類が優占する広葉樹林の多数の行動圏を比較したところ,繁殖期,非繁殖期を問わず雄が雌よりも規模の大きな行動圏を有していた(牧草地で 1.6 倍,広葉樹林で 1.7 倍;Gorman and Stone,1990).この地方のモグラの平均体重は雄が 107 g,雌が 75 g で,Farlow の数式によると 1 日にそれぞれ 0.76 W,0.59 W のエネルギーを必要とすることになり,両者の値の比は雌雄の行動圏の面積比にほぼ近いとされる.一方,こうしたヨ−ロッパモグラの行動圏面積はヒミズのものと較べると単位体重あたり極めて狭いことになる(表 3-3).これは半地下性のヒミズが地表近くのごく限られた深さの空間だけを利用するのに対して、モグラ類が地中深部を含めてより立体的な空間利用を行ない,単位面積あたり多くの食物を得ることができるためと考えられている(Ishii,1993).


 これらの知見の他に,繁殖期にはヒミズやモグラ類のそれぞれの種によって雌雄のいずれか,あるいは両方の個体が非繁殖期とは違った行動を示すため,行動圏の面積などにも変化が生じる.これについては 3.4 項で述べる.
               

ト ン ネ ル 内 で の 行 動
 穴掘りのために前肢の構造を大きく特殊化したモグラ類は,地上性の他の動物とは大きく異なる動作によって穴を掘る.ガラス容器による飼育下での観察によると,アズマモグラがトンネルを掘る際には体をいくぶん傾斜させて前肢を交互に使い,手掌をかえし,土を頭上に押しつけながら掘ったり,前肢を交互に前上方から後下方に泳ぐように円形運動をさせて掘るが(図 3-6),土が軟らかい場合は吻で持ち上げてトンネルを作る.地表に出る場合は左右の前肢で土をかき分けて垂直に地表に近づき,まず吻だけを出して周囲を警戒しながら出る.容器の中のトンネルに一定の出口はなく,何度か使用すると内側から土を盛り上げて塞ぐ(手塚,1957,1963).このようにモグラの穴掘り動作にはいくつかの様式があるが,これらは人工的に土を入れた容器の中での観察であるため,野外でどの様式がよく用いられているかは不明である.今泉(1983)はその中にモグラ類特有のものとして,左右の前肢を吻の先に出し,左右に開いて土をかき分ける力学的に効率的な様式があることに注目している.これらの他に,モグラ塚はヨ−ロッパにおいて,古くからモグラが土を頭で押し上げて作るものでると信じられていたが,その後ヨーロッパとアメリカで前足によるものであることが知られるようになった(Godfrey and Crowcroft,1960).


図 3-6 片手の円形運動によるモグラの土の掘り方(手塚,1963)

 トンネルの中で生活するモグラ類が,体表が常に物体に接触していることを好む,いわゆる趨触性(thigmotaxis)を持っていることは古くから知られている.手塚(1958)はアズマモグラを捕らえた際にポケットに入れるとおとなしくなることや,容器に入れるとその隅の折れ曲がった所に静止すること,飼育箱の床上 4 cm の高さに金網を張るとその下で安心するように見えることなどを報告した.牧田(1980)も 2 cm から 18 cm までの様々な深さに土を入れた容器にコウベモグラを入れ,土が深いとミミズを土中に引き込んで摂食したり土中で休息したりするのに対して,中にもぐり込めないほど土が浅いと,容器の端で摂食や休息を行なうことを観察している.ヒミズも同様で,上に何もないところは不安に思うらしく,トンネルの中ではいつも尾で天井に触れているため,ときどき尾が泥だらけになっていると言った記述が見られる(石井,1992).
 モグラ類のトンネル内での方向転換の方法は,大別すると 2 種類が知られている.手塚(1958)は,モグラをビニ−ル管(長径 45 cm,短径 25 cm)やガラス管(直径 45 mm および 55 mm)に入れると内部で前後に往復するか静止して出ようとせず,直径 55 mm の管内では体を折り曲げて自由に方向転換をしたと記した.牧田(1972)は,前肢基部の胴体の長径が 4.4 cm のコウベモグラを様々な直径の円筒に入れて観察を行ない,体を折り曲げての方向転換が内径 5.9 cm 以上の筒において可能であることを確かめた.モグラ類の肩甲骨や骨盤は前後に細長い形状に特殊化しており,肩甲骨が他の動物のように外側で上腕骨,内側で鎖骨と関節するだけでなく,上腕骨と鎖骨との間にも関節を持っているためにトンネル内での自由な動きが可能になっていると考えられる(柴内,1982).こうした体を折り曲げることによる方向転換に加えて,金網トンネルによる観察では,トンネルがT字型に枝分かれしている場所を利用して,モグラが自動車の方向転換のように頭部または体の後半部を分枝部に入れ,体の残りの部分を反転させ,その後で頭部または後半部を分枝部から引き抜くという方法で方向転換を行なうことが観察されている(今泉,1987).この方法による方向転換は地下性齧歯類の一種であるハダカデバネズミ Heterocephalus graber においても飼育下で観察されており(Lacey et al.,1991),おそらく多くの地下性,半地下性の小型哺乳類に見られるものと考えられる.

地 上 で の 行 動
 モグラが太陽光線に曝されると死ぬというのは誤りで,アズマモグラが 11 時間以上および 6 時間 20 分日光のもとで生存していたという記録(立花,1971)や,バケツに入れたり地上にひもでつないだりしてコウベモグラを直射日光に曝して 10 数分から 1 時間ほど生存することを確かめた実験(牧田,1977)がある.こうした俗説が生まれるのは,一般に小型哺乳類が熱射病に冒され易いことの他に,モグラやヒミズが天敵に襲われたなどの理由でよく地上で死んでいるのが見つかり,誤解を呼んできたものと思われる(3.4 項を参照).特に半地下性のヒミズ類は地上に出る頻度が高く,ヒミズよりもはるかに生体の目撃頻度の少ないヒメヒミズにおいても,日中に地上に現れて写真撮影された例が存在する(植木,1976).地上での活動も比較的敏捷で,中でもヒメヒミズは身軽であり,体を垂直に立てた 2 枚のガラス板で左右から挟むようにすると,四肢をガラス板につけて 30 cm 以上をよじ登ることができ(石井,1992),また 10 cm 程度のジャンプが可能である(柴内,1982).この種に較べるとヒミズやモグラ類は跳躍力に乏しく,ヒミズであれば紙コップなどのごく浅い墜落函でも捕獲することができる(柴内・恩地,1991a).ヒミズでは樹上での行動を示唆する知見がいくつか知られており,柴内(1982)はヒミズが登れない高さのプラスチック製のバケツを樹木の枝下に置き,ヒミズがその中に落ちることを確かめ,スギの木の葉を食べるハチ(種は不明)の幼虫を食うために木に登ったものと考えている.また,ヒミズが小鳥の巣箱に入った例も知られている(今泉・小原,1966).阿部(1983,1985)がヒミズと同じ半地下性としたホシバナモグラにおいても,飼育下で垂直なコンクリ−ト製の壁を 60 cm 登ったという報告がある
(Hickman,1982).ヒミズは水中に入れると,犬かき状の方法で巧みに泳ぐことができる(柴内,1982).
 モグラ類はヒミズ類に較べて地上に出ることが少ないが,アズマモグラでは日中に地上で目撃されたという報告(藤原,1966)や,雪上で捕獲された記録がある(今泉,1976).飼育下ではアズマモグラが容器の中の地面の上に現れる際,体に土を載せて出てくることが観察されており,防御のための偽装ではないかという意見もある(手塚,1963).水中では水面に鼻先を持ち上げて泳ぐ(阿部,1996).

活 動 量 と 環 境 条 件
 半地下性,地下性のヒミズ類やモグラ類の活動は大半が地中で行なわれ,天候や気温,照度などとの関係が他の動物よりも少ないと考えられる.しかし,これらの地上の環境変化の影響をまったく受けないわけではない.
 ヒミズを地表で仕掛けたトラップによって採集する場合,夏期には捕獲数が減少する傾向がある(湯川,1965;Usuki,1966;吉田,1971;柴内・恩地,1991a;下平・横畑,印刷中).Usuki(1966)は標高の高い地域では 8 月にも多くの個体が容易に採集されるのに対して,平地ではヒミズが地表近くのトンネルを避ける可能性があるとしている.他の小型哺乳類においても夏に捕獲数が減少する場合があり,下平・横畑(印刷中)は広島県比和町で採集された多数のヒミズとアカネズミ Apodemus speciosus,ヒメネズミ A. argenteus,スミスネズミ Eothenomys smithi の 3 種の齧歯類の捕獲数を検討し,それら 4 種の捕獲数がいずれも夏期に減少することを確かめた.モグラ類ではこうした報告はヒミズよりも少ないが,恩藤・福田(1961)は鳥取産のモグラ(おそらくコウベモグラ)をほぼ年間を通じて捕獲し,7 月と 9 月に最も多く捕獲されるのに対して 8 月には捕獲数が極めて少なかったことを報告している.上田(1963)は広島県においてコウベモグラの捕獲結果と気象条件との関連を分析し,雲の量が多く,気温が15〜16.9℃から遠ざかるほど捕獲率が高くなり,夜間においては満月の時に最も捕獲率が低下することを示唆した.ヒミズやモグラ類は地表部分のトンネルの天井が破損した場合,土で塞いで修理をするが,柴内・恩地(1991a)は,地表の 1 日の最低気温が 17 ℃以上になるとヒミズがこの行動をよく行なうようになると述べている.

活 動 時 間
 モグラ科動物の活動時間や個体間の社会的関係に関する研究は欧米,特にイギリスを中心とするヨ−ロッパにおいてはかなり研究が進んでいる.モグラやヒミズは昼間でもトラップで捕獲されたり,死亡後まもない轢死体が発見されることがあるため,古くから地中において昼夜の別なく活動しているものであろうと考えられてきた(国内では上田,1963;Usuki,1966;Abe,1968;柳川,1974 など).飼育下の観察でも,モグラ類が日中に餌を食べたり容器に入れた水を飲みに頻繁に地上に現れることが観察されている(アズマモグラ:手塚,1957;コウベモグラ:牧田,1980).
Scheffer(1913)は古典的な研究において,北アメリカ産のモグラ(論文中に種名の記載はないが,Gorman and Stone(1990)の引用文中では Scalopus および Parascalops)の地表近くを走るトンネルを多数壊しておき,それが修復される時間を調べることで,この種が昼夜の別なく活動することを証明している.その後,前述の Godfrey(1955)は,放射性同位元素の Co60 を含んだカプセルを取りつけた金属製のリングを生け捕りにしたヨ−ロッパモグラの尾の基部につけ,放逐した後にガイガ−カウンタ−を用いて地上から追跡するという方法で地中での行動の追跡を行なった.さらに Woods and Mead-Briggs(1978)は同様のリングを装着したヨ−ロッパモグラの巣の上に記録計を常置し,モグラが巣にいる時間を記録することによってこの動物の活動時間と休息時間を調べている.これらの研究によると,この種は 1 日に 3 回巣に戻って休息を取り,休息と活動を 8 時間おきに繰り返している.その後,放射性同位元素を用いた研究は法的な制限とモグラへの生理的な悪影響が懸念されることから行なわれなくなったが,小型哺乳類にも使用可能な小型の電波発信器が開発され,これを用いた研究が行なわれるようになった.例えば Gorman and Stone(1990)はスコットランド産のヨ−ロッパモグラにおいて,発信器をつけた個体の巣の上に受信器を置き,1 日の活動時間と休息時間に季節による変化が見られることを見出している.それによると、連続した数日間の観察例において活動と休息の時間はほぼ一定しているが,季節の進行にともなって雌雄それぞれに異なった様式が現れる.雄においては交尾期である 3 月末から 4 月にかけて巣にいる時間が急激に減少し,雌を求めて盛んに活動していることが明らかである.また,9 月から 10 月にかけて雄の休息と活動の時間がそれぞれ 1 日に 2 回だけになるが,この理由は明らかではない.雌は 5 月から 6 月にかけて巣にいる回数が 4 回に増えており,授乳などの育仔行動に関連するものと考えられる(交尾,育仔の時期の詳細については次項を参照).活動や休息の開始,終了の時刻は夜明けや日没の時刻の変化とは明瞭な関係がない.Loy et al.(1994)は電波発信器による追跡をイタリア半島中部産のロ−マモグラ Talpa romana について行ない,1 日 3 回のそれぞれの活動時間の中で,その前半期にはトンネル網全体の巡回が行なわれ,後半期には行動圏の中の特定の部分だけを集中的に利用することを見出した.日本産のモグラ類において活動時間の詳しい研究はないが,飼育下ではヨ−ロッパ産の種と同様の,1 日に 3 回活動と休息を繰り返す傾向が観察されている(今泉,1983).ヒミズ類の活動時間に関する研究は少ないが,横畑ら(1994)は飼育下で数頭のヒミズの活動時間を光学センサ−を用いて観察し,モグラのものに類似した 1 日 3 回前後の活動周期を示すことを確かめている(図 3-7).


図 3-7 光センサーを用いて記録した24時間中のヒミズ3頭の活動量の変化(逆三角形は休息時間の中心;横畑ら,1994)

社 会 行 動
 日本産のモグラ科動物の社会構造に関する研究は極めて限られている.ヒミズにおいては,同じトンネルで複数の個体が同時に捕らえられることがあることから,同一のトンネルを複数の個体が利用している可能性が示唆されていた(柴内,1982).その後,前述の Ishii(1993)は記号放逐法によってこの動物の個体間関係をある程度明らかにした.それによると,ヒミズは繁殖期を除くと雄同士,雌同士の間での行動圏の重なりは少なく,互いに排他性を持った縄張りを持っているが,特定の雌雄の間では行動圏が重複する場合があり,ペア関係にあると考えられる.この研究の中でも一つのトラップで複数の個体が同時に捕えられる場合が 5 回あったが,そのすべてが雌雄 1 頭ずつの場合であり,ペアになった個体がある程度一緒に行動している可能性が示唆されている.前述のように,ヒミズは体重あたりにするとモグラ類よりも広範囲な行動圏を持っており,その理由のひとつは食物を探すことのできる深さがモグラ類に較べて限られていることであろうと考えられている.しかし,もう一つの理由としては,雌雄の行動圏が重複することによって,1 頭あたりの必要な食物量を得るために,より大きな行動圏が必要になるとも考えられている(Ishii,1993).
 こうしたヒミズの個体間関係に対して,モグラ類は典型的な単独生活者であり,個々のトンネル網が,その中に住む 1 頭の個体の占有する排他的な縄張りである.この点についての野外での初期の研究には前述の Godfrey(1955)などがあるが,さらに Stone and Gorman(1985)は小型の電波発信器をイギリス産の雄 1 頭,雌 3 頭のヨ−ロッパモグラの尾の基部に取りつけ,雄の行動圏が雌のものよりも広いことを見出し,各個体の行動圏があまり重複せず,排他的な縄張りになっていることを直接確かめた.Gorman and Stone(1990)は,この種の多くの個体の行動圏を同じ方法で追跡し,これらのことをさらに確認したが,それによると 2 個体の行動圏がその周辺部において少なくとも平面的には互いに重複しているように見える場合が少なくなく,実際にそうした部分では両者のトンネル網が複雑に入り組んで立体的に絡み合い,互いに接続しているが,その中で各々の個体が使用するトンネルは決まっていて重複はなく,交尾期以外にこれを越える行動は見られない.国内でも,モグラを飼育する際に一つの飼育箱に 2 頭を一緒に入れておくと闘争し,共喰いをする場合があること(手塚,1963)や,採集にともなう野外での経験(Abe,1968)から,Mogera 属のモグラもまた明らかな排他的な単独生活者であると考えられてきた。ミズラモグラやセンカクモグラもおそらく同様な社会構造を持つものであろう.そこで,今泉(1985)は 2 頭のモグラ(種は不明)を金網製の人工トンネルの中で飼育し,トンネルをつなぐことによってその 2 頭を遭遇させ,観察を行なっている.その際,トンネルに侵入してきた個体に対して,先住者は体を弓なりにそらし,前足の指を大きく開いて威嚇することが観察され,口を開けて歯をカチカチと鳴らす場合もあったという.さらに侵入者が 5 〜 6 cm の距離まで近づくと,先住者は体を弓なりに反らした独特の姿勢で,前足を頬に当て,相手にぶつかる攻撃行動を繰り返し,侵入者は急いで後退し,トンネルの分岐部で方向転換をして逃げたという.
 こうした排他的な社会構造は,隣接して暮らしている複数の個体の活動時間の同調性という現象にも見ることができる.Gorman and Stone(1990)は,行動圏の隣り合う 5 頭のヨ−ロッパモグラに電波発信器を取りつけ,巣の上に受信器を置くことによって 48 時間の連続観察を行ない,前述の約 8 時間の活動周期において,同じ時間に巣に戻って休息を開始し,また同じ時間に巣から出て活動に入っていることを見出だした.これは各々の個体が振動などで周囲の個体の活動状態を知り,互いに休息している間に自分の縄張りをおかされないようにするためであろうと考えられている.ヒミズにおいても,個別に飼育しつつ金網製のトンネルを介して接触しあえるようにした個体の活動時間が同調し合うことが観察されている(横畑ら,1994;図 3-7).
 さらに,いくつかのモグラ科動物は発達した皮膚腺を持っており,その分泌物がにおいによる個体間の情報伝達に用いられている可能性がある.日本産の Mogera 属のモグラ類では胸部から腹部にかけて橙色の液体を分泌する腺があり,特に交尾期の雄においてよく発達し,腹面を橙色に染める(Abe,1967).金網製の人工トンネルを用いた観察によると,この腺の分泌物はモグラ(ここでの種は不明)がトンネルを通行する際に自動的にその床面に付着し,モグラを別の個体のトンネルに入れると,先住者のにおいを探知した個体が体を延ばし、硬直した歩き方を示す(今泉,1987).今泉(1985)は上述の観察で,人工金網トンネルの先住者が,侵入してきた個体を追い払った直後にトンネルの中で胴体を腹側へ弓なりに曲げ,胴体の腹面をトンネルの内壁にこすりつけ,積極的なにおいつけ行動を行なうのを観察している.また,この他にも,Mogera 属の日本産モグラ類は,肛門部などいくつかの部位に特殊化した皮膚腺を持っていることが組織学的に記載されている(長島,1958).ヨ−ロッパモグラでは,雌雄の外部生殖器の付近にある包皮腺(prepuitial gland)の重量が繁殖期にともなって変化し,野外で捕獲したモグラに放射性同位元素32Pを注射して放逐し,トンネル網の中で尿とともに排出させることによって,トンネルの分岐点などの多くの場所に尿が排泄されていることが確認されており,やはり個体間の情報伝達に役立っている可能性があるとされている(Gorman and Stone,1990).また,この種のモグラを捕獲する際に,一度別の個体を捕獲したトラップを洗わずに用いると捕獲率が下がることが知られており,他の個体のにおいがついたものを忌避するためであろうと考えられている(Gorman and Stone,1990).

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